野球肩・肘の障害予防 

トレーナーの立場より

今回はその中でも「障害予防」について紹介します。

『怪我をしたら治療する。』『痛みが出たら休む』など対症療法的解決をしていては怪我が無くなりません。それどころか同じ怪我を繰り返してしまうかもしれません。

ゴミが多く流れている川を一生懸命掃除する(対症療法的解決)のではなく、
ゴミを流さないために、川の上流へのゴミ箱の設置すること(障害予防)が
大切なのです。

障害予防を考える上で大切なのは、障害が発生する原因を探すことです。

障害が発生するには必ず原因があります。

特に以下の
3つの因子から原因を探します。

1)身体的因子 身体の柔軟性・筋力・技術 など

2)環境因子  天気・道具・練習内容   など

3)心因的因子 対人関係・ストレス・プレッシャー など 

これらの原因に対して、対応策を考え実行します。

今回、国際武道大学体育学部スポーツトレーナー学科 笠原 政志先生をお迎えし、トレーナーとして普段から現場に携わっている立場からのお話をうかがいました。

先生の講演内容を簡単にご紹介します。

ポイントは以下の4つ項目です。

1、     アスレチックトレーナーの役割について

2、     ウォーミングアップについて

3、     ストレッチの方法

4、     クールダウンについて

股関節の体操;投球では股関節を内側にひねる動作が大切

肩甲骨を後ろに動かすストレッチ

肩甲骨を後ろと前に交互に動かす練習

太ももの前のストレッチ

3,ストレッチの方法について

ストレッチは普段から当たり前のように行われており、今回の参加者の方々も大半が実際に行っています。

しかし、普段行っているストレッチが実際の投球動作に必要な筋肉を伸ばしているでしょうか?投球動作に限らず、目的の動作に応じてストレッチングが必要な筋肉は異なります。これらの話は「第2回スポーツ支援講習会 ストレッチの方法`考えて伸ばせ`」でも紹介しておりますので参考にしてみてください。

ここでは、笠原さんが紹介してくれた、投球動作を意識した具体的なストレッチの方法を紹介します。

2.ウォームアップについて

○ウォームアップの目的は以下の4つです。

・筋温を適正なところまで上げる

・体の柔軟性を高める

・神経系を高め運動に対して準備を行う

・疲れにくくなる

その結果

運動能率の向上、筋・腱などの関節障害などの予防につながる。

 

○ウォームアップの内容としては

・体を温める    →ジョッギング・体操

・体を柔らかくする →ストレッチング

・競技動作の準備運動→動作ドリル

などを主に行います。

1、アスレチックトレーナーの役割について

トレーナーの役割は非常に多く、現場で起こる様々なものに対応しなければなりません。

主なものとして以下が挙げられます。

1)スポーツ外傷・障害の予防

2)スポーツ現場における救急処置

3)アスレティックリハビリテーション

4)コンディショニング

5)測定と評価

6)健康管理と組織運営

7)教育的指導

武道大の学生によるストレッチのデモ

・アイスマッサージ

キューブ状の氷、小さな氷片もしくは紙コップで作った氷で比較的狭い限局的な部分に対して直接氷を当てながら行います。

・アイスバス

バケツ、容器に氷水をはりその中に患部を入れます。

この方法は、患部が比較的大きく広範囲の場合に適します。

足先を浸す場合は専用のトゥー・キャップもしくはラップなどを巻くと必要以上の冷たさからくる苦痛を防ぐことができます。

4、クールダウンについて

○クールダウンの目的

・筋温を適正なところまで下げる

・硬くなった体の柔軟性を回復させる

・疲労物質を除去する

・疲れをためない

その結果、

疲労を残さないこと!怪我の予防につながる。

 

○クーリングダウン内容としては以下のことを主に行います。

・疲労した体の血行をよくする⇒ジョギング、体操

・疲労した体を柔らかくする⇒ストレッチング

・よく使用した部位を冷やす⇒アイシング

 

ここではアイシングの方法を紹介します。

・アイスパック

ビニル袋(ナイロン袋)または氷嚢に氷を入れてパックを作り直接患部に当てる

★笠原先生の研究でアイシングの効果を検証したものを紹介します★

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【20球の全力投球後にアイシングを行ったものと行わなかったもので筋肉の柔軟性がどう変化するのかを比較した実験です。】

条件は以下の3つです。

@全力投球(20球)⇒1分安静⇒クーリングシートにてアイシング(3分)⇒投球(15球)

A全力投球(20球)⇒1分安静⇒アイスパックにてアイシング(3分)⇒投球(15球)

B全力投球(20球)⇒4分安静⇒投球(15球)

ウォーミングアップ後と、実施翌日で筋肉柔軟性を比較しました。

 

結果

@〜Bのいずれも翌日には筋肉の柔軟性は低下します。その中でもアイシングを行わなかったBでは全力投球後に比べて有意に翌日の可動域低下がみられました。

 

アイシングを行ったほうが、筋肉の柔軟性が維持しやすいことが分かります。

この実験結果からも、アイシングの効果がうかがえます。

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以上のような研究結果からもアイシングは有効だということは分かりますが、実際現場で行うとなるとなかなか難しい問題も出てきます。「練習直後に行ったほうがよいか?」「風呂上りでよいのか?」「冬場は寒すぎる」など皆さんも疑問に思っているようです。

しかし講義の中でもお話がありましたが、「最適な実施時間」「より効果が出るタイミング」などといったことはまだ分かっていない部分も多いようです。

 

アイシングを行うことで『体が冷えすぎる』、『逆に痛みが出てしまう』など苦痛を感じてしまうのならば無理に行うことはありません。『気持ちいい』、『アイシングを行うことで楽になる』と思えるように各選手に応じて最適な方法を検討してゆく必要があると思います。

 

以上、笠原先生の講義内容を簡単ではありますがご紹介させて頂きました。

最後に講義中での先生のお言葉を借りて障害予防のポイントです。

障害予防のポイントは疲れを翌日に残さないことです。よく食べて、よく寝る。そして翌日にはまた元気に運動をする。怪我なく運動を続ける上で、大切なことだと考えられます。
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肩甲骨を前に出すストレッチ

股関節前のストレッチ

股関節前+体のストレッチ

そして当たり前のことを当たり前のように継続することが大切です。

1回だけしっかり歯磨きをすることは虫歯予防ではありません。毎日歯磨きを継続するから虫歯予防になるのです。

障害予防も、毎日当たり前のように継続することで障害予防としての効果があるのです。